concept room(2020年3月撮影)

建築家・松島潤平さんがリノベーション設計と家具デザインを手がけた
リアージュ砧テラスのコンセプトルーム。

個性的な形のメゾネット空間という既存建築のオリジナリティを活かしつつ、「自分の暮らしを客観的に見つめること」
「住まい手自身が生活をデザインすること」「外へ出かけたくなること」など、
暮らしへの意識改革を提案するデザインについて松島さんに伺いました。

concept room(2020年3月撮影)

“ていねいな暮らし”を、
ここならきっと実現できる

松島潤平さん

―  リアージュ砧テラスを最初に見た印象を教えてください。

生活しやすい世田谷エリアのなかで、リアージュ砧テラスにはこれぞ「上質な世田谷の暮らしの場」というイメージを持ちました。幹線道路にすぐ出られて高速道路の入り口も近いので車のある暮らしにも便利ですし、近所には砧公園、敷地内にも中庭があって緑豊か。既存建築が持つ絶妙な配置の密度感とリズム感、全体のリノベーション設計によるトーンの整えられた表情も素晴らしい。“ていねいな暮らし”というフレーズが使われるようになって久しいですが、「この場所なら実現できそうだな」という大きなポテンシャルを感じました。

今回リノベーションしたコンセプトルームはメゾネットの上下階合わせて約140㎡あり、僕がこれまで携わってきたリノベーションプロジェクトでも一番の広さです。例えば自宅が仕事場を兼ねる、日常的に人を招いて楽しむなど、自分らしく暮らしを楽しむファミリーには住みやすい環境だと思います。僕自身も自宅兼事務所で仕事をしていますし、小さな子どもがいるなど重なる部分が多く、リビタさんから「松島さんがリアルに住みたい部屋をつくってください」と依頼されて設計を進めました。

concept room(2020年3月撮影)

―  メゾネット住戸にはどんな印象を持ちましたか?

メゾネットは上下階を行き来することで、生活のなかでの気持ちの切り替えがしやすいのが魅力ですよね。自身の暮らし方や働き方そのものをデザインする人が増えていますが、デザインという行為は対象から少し距離を取らなければできないものだと思います。いつもの生活空間を少し引いた場所から眺め直すタイミングをつくれるメゾネットは、そうした観点からもクリエイティブなライフスタイルに最適な居住空間の形式だと考えています。

明るく広い上階に、家族の共有空間である広いLDKを設計しました。元の変形した形状のプランを整えた結果生まれた南側にはみ出たような空間を、インナーバルコニーとしてしつらえています。こうした中間領域は、住む人のアレンジ次第で個室にもできるし、大きなバルコニーのような半屋外空間として扱うこともできる。どちらにもとれる“曖昧な状況”は、住まい手がクリエイティブに生活を楽しむ余地になる部分です。家族は仕事の環境や子どもの成長でどんどん変化するものですから、そのつど生活そのものをデザインすることが大切だし、それが楽しさに変わる空間をつくりたいと考えています。全体の秩序を整えつつ、住まい手の行動を規定したくはない。「こう住まわなければ」と縛られると苦しいし、住まい手は暮らしをチューニングすることを億劫に感じないでほしいと思いますね。

ステンレス壁の反射が
緩やかな「暮らしの観察」を促す

concept room(2020年3月撮影)

―  LDKとインナーバルコニーの関係がユニークですが、どのように考えましたか?

LDKが主空間とすれば、インナーバルコニーはそこからはみ出た衛星のような空間です。その間に、大きな曲面のステンレス壁をつくりました。表面にバイブレーション加工を施しているので反射率が抑えられており、リビングとインナーバルコニーからは、互いの空間の湾曲した鏡像がステンレス壁を介してぼんやり見えるという関係になっています。

“ていねいな暮らし”とは何か、と改めて考えてみると、「日々の家事や些細な生活時間に意識を向けて、自分たちの暮らしを整えること」。先ほど「生活を眺め直す」と言いましたが、そうは言っても暮らしを常に正面から監視するのはちょっとつらいですよね。ていねいな暮らしをささやかに促すために、窓から天気を伺うぐらいの心持ちで自分の生活空間を垣間見る、そういう装置としてこのステンレス壁を発想しました。

concept room(2020年3月撮影)

ステンレスのバイブレーション仕上げは、周囲の色を絶妙に拾いながら凛々しく品のある表情を空間にもたらしてくれます。穏やかな暮らしにこのようなシャープなアクセントが加わると、生活のデザインに対してより意識的、客観的になれると思います。

素材をマットな質感でまとめると空間の完成度は高まるのですが、この部屋には世田谷の空気感や緑あふれる外構といった周囲の色が映り込む場所をつくり出したいという気持ちがありました。プライベートな宇宙を少し開放するというか、「ここにないもの」に意識を向ける。そのために「反射」という現象が有効だと感じ、取り入れることで閉じない世界をつくろうと思ったんです。

いろいろなことが起こるLDKが
豊かな暮らしをつくる

concept room(2020年3月撮影)

―  広さを活かしたLDKは仕事や食事やくつろぎなど、さまざまな行動が起こりうる空間ですね。

これだけの広さがあるからこそ、ひとつながりの空間でも互いに距離を取れるのは大きな強みでした。例えば仕事をする親と勉強する子どもが同じリビングにいるのはクリエイティブな住まい手の暮らしに合っているでしょうし、ひとつのリビングでいろいろなことが起こるほど暮らしの豊かさは増していくと思います。

ダイニングテーブルとチェア、ソファ、ベンチはオリジナルで製作しました。意匠的に空間にフィットするだけでなく、LDKのなかに浮島状に配置するイメージでデザインし、家具でレイアウトを変えられる仕組みにしています。例えばダイニングテーブルはオーバル型で、縦・横・斜めとさまざまな置き方ができること、また周囲を回遊できることを意識しました。

これらの家具で領域をつくったりカーブする梁型で緩やかに空間を分けたりして、広い空間に大きく4つのエリアが生まれるようにしています。そのなかで家族やゲストが自由に行動を選べたり、同時にいろいろなことをしても何となく成立する。そんなおおらかさを持つ都市的な空気が暮らしに生まれるようにデザインしました。

concept room(2020年3月撮影)

―  素材選びで考えたことを教えてください。

住宅ではカラースキームを統一することが多いですが、この家は広さが十分にあるし、互いに眺めるというストーリーもあるので、LDKとインナーバルコニーでフローリング素材を切り替えました。どちらをどう使うかは住まい手が決めればいいし、委ねるヒントにもなると思っています。

concept room(2020年3月撮影)

さらにこの感覚を、家具にも応用しています。今回の家具製作は、日本有数の木製家具メーカーであるカリモク家具と協業で行いました。

同社の技術を生かして、ウォールナット材の内部にオーク材を嵌め込み、接着をし、ウォールナット部材の一部を削り込むと内部に嵌め込まれたオーク材が現れてくるという製法をベースに、月光をイメージしたテーブル類などのデザインを固めました。

木は樹種ごとに伸縮率や反りなども異なりますが、それらのことも配慮しながら素材の接着方法に工夫を尽くし、また表層に現れる材料削り後の2種の素材の見え方を精度よく仕上げる技術はカリモクならではのものです。 椅子類のクッション部の張り地も、2種類のテキスタイルをツートンにして、光の加減や方向で印象が変わるようにしつらえました。

concept room(2020年3月撮影)

ゲストを受け入れる家、
外に出かけたくなる家に

concept room(2020年3月撮影)

―  人を招く空間としての設計も大切にしていますね。

この家の場合、インナーバルコニーはゲスト空間としてもバックヤードとしても使えるし、ダイニングテーブルは大勢で囲めるサイズにするなど、気兼ねなく人を呼べるつくりにしています。ゲストを受け入れられるということは、子どもの成長や家族の転職、ご両親との同居など、家族の属性やステージが切り替わっても受け入れられるおおらかさがあるということだと思っています。

concept room(2020年3月撮影)

また、僕は住まいをつくるとき、いつも「外に出たくなる家であること」を大切にしています。インテリアをつくり込んでおきながら矛盾して聴こえるかもしれませんが、外で得たさまざまな経験やアイデアを住まいにどう持ち込むか考えたとき、すごく楽しい生活が待っていると思うんです。外で変化した自分を受け入れてくれる家、いつも自分がゲストのような気持ちで帰ることのできる家という感覚を作りたい。これは、ステンレスに反射した外の世界に意識が向くことにも通じる感覚だと思います。

地域の人や友人と交流がある人、そして頻繁に外出する人は、明らかに健康寿命が長いというデータがあります。「ゲストを受け入れる家」「外に出かけたくなる家」であることは健康的な生活を送るために欠かせないコンセプトであり、それこそが“ていねいな暮らし”にふさわしい家だと考えています。

concept room(2020年3月撮影)

松島潤平

1979年長野県生まれ。隈研吾建築都市設計事務所を経て、2011年松島潤平建築設計事務所設立。東京大学・武蔵野大学・ 芝浦工業大学非常勤講師。

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